IVナースとは
看護師が行う静脈注射は、医師または歯科医師の指示の下に、保健師助産師看護師法第5条に規定する補助行為の範囲として取り扱うものとされています。ただし、薬剤の血管注入による身体への影響が大きいことには変わりはないため、医療機関においては、看護師等を対象とした研修を実施することとされています。特に、抗がん剤などの細胞性の強い薬物の静脈注射、点滴静脈注射は一定以上の臨床経験を有し、かつ、一定以上の教育を受けた看護師のみが実施出来るものと、日本看護協会の静脈注射に関する指針に定められています。
そこで、当院看護部では、院内独自の「看護師静脈穿刺レベル別穿刺基準」を定め、安全・安心な静脈注射を実施するための知識・技術の取得とレベルに応じた看護スタッフの育成を目的とし、看護師の能力に応じた段階的な教育指導「I.V.ナース教育プログラム」を行っています。
IVナースⅢa認定者には、病院長より認定証と認定バッジ(右写真)が授与されます。
IVナースの1日
当院のIVナースは外来・病棟で活躍しています。今回は外来で化学療法を担当するIVナースの業務の一例を紹介します。
08:30業務スタート
本日の化学療法予定患者、薬剤、治療時間の確認などの情報収集を行います。
09:00ミーティング
スタッフ間で情報共有、ベッドコントロールを行います。
採血データを確認し、副作用症状を評価します。
診察
化学療法を予定している医師の診察に同行し、全身状態、副作用症状、治療計画、副作用に対する処置内容、本日の抗がん剤投与の有無と投与量などを確認します。
診察後、医師から薬剤部へ、化学療法実施のため調剤依頼の連絡をします。
10:00外来点滴治療室へ案内
患者さんの副作用の出現状況、セルフケア状況などを確認しベッドへ案内します。点滴オーダー確認、本日の投与量、薬剤変更の有無を確認します。
点滴確認
薬剤部より薬剤が届いたら、スタンダードプリコーションを徹底し6Rで確認します。
穿刺
患者さんに応じて、血管やCVポートへ穿刺します。
治療開始
観察は開始してから30分まで15分毎、以降30分毎に施行します。
治療中
副作用症状の観察、前回の投与から本日までの情報収集をし、必要があればセルフケア指導を実施します。
治療終了
バイタルサインを測定し、異常がなければ針を抜いて終了です。
その他
病棟で化学療法がある場合、当該病棟のIVナースが不在であれば病棟スタッフと連絡を図り患者さんの穿刺を行います。
IVナース研修設置の経緯
当院では、がん患者に対する抗がん剤投与時の静脈経路確保を診療科医師が実施していましたが、入院だけでなく外来での抗がん剤投与患者が2010年より約3.2倍と増加したことに伴い、2013年看護師の業務拡大として、看護部では院内静脈穿刺基準の見直しを実施しました。「安全・安心な静脈注射を実施するための知識・技術の取得とレベルに応じた看護スタッフの育成」を目的としたIVナース育成プログラムについて、がん化学療法認定看護師の木村看護師が中心となって作成し、院内認定制度を導入しました。
現在静脈穿刺だけでなく、担当する患者・家族のケアの質向上、看護師教育、がん化学療法のエキスパートとして幅広く活躍しています。
研修内容と穿刺基準
IVナースレベル | レベルⅠ (卒後1年目) |
レベルⅡ (卒後2年目以降) |
レベルⅢa (卒後5年目以降Ⅱクリアが条件) |
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研修内容 |
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研修方法 |
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※1 下記表詳細
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穿刺基準 | 静脈路確保: 20G以下透析除く |
静脈路確保: 輸血、強アルカリ製剤等毒性の強い薬剤投与 |
静脈路確保: 抗がん剤、造影剤、細胞毒性の強い薬剤、皮下埋め込み型ポートのヒューバー針挿入 |
IVナースレベル | レベルⅠ (卒後1年目) |
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研修内容 |
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研修方法 |
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穿刺基準 | 静脈路確保: 20G以下透析除く |
IVナースレベル | レベルⅡ (卒後2年目以降) |
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研修内容 |
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研修方法 |
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穿刺基準 | 静脈路確保: 輸血、強アルカリ製剤等毒性の強い薬剤投与 |
IVナースレベル | レベルⅢa (卒後5年目以降Ⅱクリアが条件) |
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研修内容 |
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研修方法 | ※1 下記表詳細
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穿刺基準 | 静脈路確保: 抗がん剤、造影剤、細胞毒性の強い薬剤、皮下埋め込み型ポートのヒューバー針挿入 |
※1 ⅠVナースレベルⅢaプログラム概要
研修 内容 |
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研修 方法 |
講義 | 講義 | 講義 | 講義 | 講義 | シミュレーター演習 |
講師 | 消化器外科医師 | がん化学療法認定看護師 | がん化学療法認定看護師 | 放射線技師 | がん化学療法認定看護師 | がん化学療法認定看護師 |
研修 時間 |
210分 | 210分 | 60分 | 60分 | 150分 | 60分 |
IVナースレベルⅢaの主な活動
- 認定者のフォローアップ研修 1回/年(講義・グループワーク)
- 穿刺機会の多い外来での研修 1回/年(シミュレーター研修、患者家族対応教育)
- 1回/年の所属部署での勉強会企画実践
- Ⅲa認定者の一覧表を作成し、当該病棟で認定者が不在の場合は、多病棟の認定者に静脈穿刺を依頼できる体制をとりがん化学療法を実施
IVナースⅢa 認定試験(筆記試験)問題の1例
問題:分子標的アバスチンについて以下の4つの文章から誤ったことを述べているものを1つ選べ。
- 血管新生薬(アバスチン®)はがん細胞だけでなく、その周囲に存在して、増殖に必要となる栄養や酸素を供給する役目を果たす血管内細胞に作用し、増殖抑制作用により供給機能を低下させることで抗腫瘍効果を示す。
- アバスチンの副作用には高血圧があり、投与中は血圧をモニターし治療開始前と比べて20㎜Hg以上の血圧上昇が持続し、自覚症状が伴う場合や150/100㎜Hgを超える場合には降圧薬を投与する。
- アバスチンの副作用には創傷治癒遅延があるため、手術創の治癒遅延や術後出血を招くことがある。そのため、ポート挿入などの手術も避け、6~8週間前は投与を避ける必要がある。
- アバスチンの副作用には出血があるため、鼻出血、歯肉出血などが発症しやすい。
IVナースインタビュー
IVナースからのメッセージ
認定看護師
患者さんに安全・安楽な治療を提供しています。
IVナースのリーダーをしています。
IVナースが病棟に所属していることで、がん化学療法を受ける患者さんに迅速に対応することができ、患者さんに安全・安楽な治療を提供できています。また、IVナースによる所属病棟での勉強会の開催や病棟スタッフへの指導などにより、院内のがん化学療法看護の質の向上につながっています。今後はIVナース同士の連携をはかり、がん化学療法看護マニュアルの整備や、抗がん薬曝露対策も強化していきたいと思っています。
これからIVナースを目指す皆さんには、所属病棟に留まらない活躍を期待しています。
化学療法穿刺を主として活動しています。
化学療法穿刺を主として、患者さんの安全に考慮した実施と観察を心掛けています。
入院で1ヶ月程度入院する患者さんには、その都度化学療法施行後の副作用が出ないかラウンドをしています。また、病棟看護師へ副作用の出現期間や曝露対策について指導する機会も増えており、IVナース研修で学んだことを軸に新たな知識を共有できるよう勉強会を主催しています。
質の高い看護が提供できるようこれからも日々研鑽していきます。
患者さんの安全のために、確認作業を徹底しています。
IVナースレベルⅡ研修では麻薬や血液製剤、輸血の取り扱いについて学びました。私が勤務している呼吸器内科病棟では、麻薬を取り扱うことが多いです。患者さんに安全に投与するために看護師間でのダブルチェックは怠らないように徹底しています。また、麻薬を使用することでほとんどの患者さんへ副作用が出現します。麻薬投与開始から患者さんの副作用の観察は注意しながら行っています。今後も、患者さんに安全に投与するためにも、確認の徹底を行っていきたいと思います。
レベルⅢへステップアップする為、日々努力しています。
私たちは日々の業務の中で、ハイリスク薬、毒薬、劇薬を取り扱っています。その中でも抗がん剤を使用することが多くあり、投与中、投与後の副作用症状に注意して観察を行っています。また、類似した薬剤が多くあるため、投与前には必ず6Rを意識してダブルチェックを行い、誤投与を予防しています。
今後はIVナースレベルⅢへとステップアップできるよう努力していきたいです。